4.14
https://realsound.jp/movie/2023/04/post-1303252.html
(资料图片仅供参考)
『ナラタージュ』『窮鼠はチーズの夢を見る』の脚本を手掛けてきた(※堀泉杏名義)伊藤ちひろが、監督・脚本・原案を務めたオリジナル映画『サイド バイ サイド 隣にいる人』が、4月14日に劇場公開を迎える。
伊藤監督が「坂口健太郎さんの持つ圧倒的な透明感に魅了されてできた作品です」と語る本作は、主演を務めた坂口の存在感はもとより、観る者の想像力を刺激するような得も言われぬ物語に仕上がった。目の前に存在しない“誰かの想い”が見える青年・未山(坂口健太郎)は、恋人で看護師の詩織(市川実日子)とその娘・美々(磯村アメリ)と静かに日々を過ごしていた。ある日、未山は姿を消していた元恋人・莉子(齋藤飛鳥)と再会し……。
リアルサウンド映画部では、坂口健太郎、齋藤飛鳥、市川実日子、伊藤ちひろ監督による座談会をお届け。感受性を研ぎ澄ませて挑んだ現場について語ってもらった。
――『サイド バイ サイド 隣にいる人』は観客にとって、皆さんの初めて観る表情が詰まった作品なのではないでしょうか。
市川実日子(以下、市川):わかります。私も先日観返したのですが、坂口(健太郎)くんの観たことのない表情があって……どのシーンだったかはっきりと思い出せないのですが(笑)。
坂口健太郎(以下、坂口):思い出せないのか!(笑)
伊藤ちひろ(以下、伊藤):どの辺りでした?
市川:中盤以降だったと思います。暗いところで、独りでいるような……結構そういうシーンはあるんですが(笑)、初号試写と別物に感じました。(伊藤に)編集って変わりました?
伊藤:いえ、同じものです(笑)。
市川:ええっ!
坂口:まとめると、1回目と2回目以降の印象が全く変わる作品ということじゃないですか?
市川:身をもってそう思います(笑)。繊細な表情の変化が映し出されているので、まずは映画館の大きなスクリーンで観ていただけたら...…。
坂口:詩織も莉子も、初登場時からどんどん表情が変わっていきますよね。いろいろな寄り道をしながら進んでいく作品ですし、「このシーンが」というよりも全体を通して生っぽさがあると思います。僕が演じた未山は今回、人に合わせて対応の仕方が変わるキャラクターでもあったので、現場で見ていても変化を感じるところはありました。そして今、実日子さんが言ってくれたように、映像で観るとちゃんと機微が伝わるから、その瞬間にハッとさせられました。
齋藤飛鳥(以下、齋藤):莉子がいないところの詩織さんと未山くんのシーンは、新鮮でした。台本を読んだだけだと掴み切れなかった空気感や2人の関係性が見られましたし、莉子と一緒にいるときとはまるで違う穏やかな未山くんを見て「莉子って重たいな……」と感じました(笑)。
伊藤:本作って、結構セリフが少ないじゃないですか。それぞれに相手の気持ちを汲み取りながら自分の思いは言葉にしないという瞬間がいっぱいあるのですが、それを皆さん表情で語ってくださいました。
――伊藤監督は、距離感を大切にされたとお話しされていましたね。
伊藤:そうですね。人と人の距離、自然との距離……。
坂口:そして心の距離。そういったことを大切に撮っていく現場でした。
――坂口さんは「ただ存在する」ことに苦心されたと伺いましたが、市川さん、齋藤さんにとっての本作でのチャレンジはどのような部分でしたか? 言葉にならない部分を追求していく作品だったかと思いますが。
市川:台本を読んでも、余白がとても多い作品だと感じました。現場に行ってみないとわからないだろうと思っていたのですが、現場に行ってもわからなかった(笑)。個人的にはもうちょっとヒントがほしいとも思ったけど、監督は委ねてくださる方だったから、どこにヒントがあるのかその場で感じようとしていました。
伊藤:実日子さんは現場でも細かい部分まで聞いてくださって、コミュニケーションを密に取ってくださいました。詩織自身も一番人間的なキャラクターだったから、助けられました。刺し子のシーンも、実日子さんが実際に刺しゅうしてくださったものを使っています。
坂口:そうでしたね。カメラが回る前から刺しゅうをしていて、カメラが回っても続けていて。
市川:はい、とても楽しかったです(笑)。
伊藤:撮影の合間にやっていたことが良かったので、そのまま採用させていただきました。
市川:そうでしたか(笑)。その場で起こったことを大切にしてくれる現場でした。でもその中で、物語としてどうなっていくかの意図がちゃんと通るように、自分の役のバランスをとっていく。やじろべえのようにゆらゆらとしながら、良いところをずっと探している感覚でした。あとは「詩織は自然に囲まれて暮らす女性です」と最初にお聞きしていたので、それを感じたいと思ってよくお散歩していました。
齋藤:私は、莉子ちゃんの役の説明を受けたときに、私のパブリックイメージが莉子ちゃんに近いと思っていただけたのかなと感じました。まだお芝居をそんなにやっていないので、演技プランだったり計算ができるわけではないのですが、なるべくそういったものを出さないようにフラットでいるようには心がけていました。
伊藤:キャスティングの時点ですでに、脚本で描いたキャラクターをより魅力的に演じてもらえると信じることのできる方々にオファーしています。ですので、本人たちの本質がなるべく生かせるようにしたいというようにも考えていました。
――お三方の共演シーンだけを切り取っても、最初と最後で距離感や関係性が大きく変わっていきますよね。言葉で、というよりも、その場で生まれるものを掬い取っていく中で生まれたものなのでしょうか?
坂口:それに近いと思います。監督の演出方針として、「ここが100%正解」というのをあまり明確にせず、ある程度でぼやけさせておいて、その方向に向かっていく作り方をしていました。その過程で、何が詩織や未山に合っているかを固めていく作業が現場で多々あったので、自分の中である程度決めきっていってしまうと、方向がズレたときに摩擦が生まれてしまう。だから、現場でその瞬間に生まれたもの・感じたことを臨機応変に出せるように、感覚を鋭敏に保つ必要がありました。意識を張り巡らせる時間が長いほど疲れてくるし、ある意味とても大変なアプローチではありましたが、今のこの雰囲気を見ていただければ伝わる通り楽しくやっていました。いろいろと喋りながら探すという感じでしたね。
市川:そうですね。「こうしよう」と話し合うというよりも、言葉にせずにお互い感じ取り合いながら、接していく中で役を見つけていく現場でした。だから最初は、(齋藤)飛鳥ちゃんと私はバッチバチでした(笑)。
齋藤:(笑)。
坂口:「こうやって」と言われる方が、僕たち(俳優部)にとってはある意味簡単なんです。そこにどう心情を乗せていこうかという話になるから。でも今回は、ふわっとした範囲の中で模索していく時間が主でした。例えばシーンの合間に台本に書かれていないことをちらほら話して、それで役が見えてくるような。
市川:みんなが静かに探していましたよね。美々と一緒に遊んでいる時間もすごく大事でした。撮影の合間の「あっ、虫がいるよ!」みたいに話していることすらも繋がっていて、カメラの前に立った時にそれが自然と出てくる。
伊藤:この作品自体が言語化して整理されたものでは表現できないからこそ、みんなで感覚的に創っていきました。特に坂口さんは私から見ても「張り巡らせているな」と感じました。全体の空気そのものを大切にしてくれていました。
坂口:現場だから、というのもあるかと思います。スタッフさんと「どうやって作っていこうか」とコミュニケーションを取る必要もあったし、現場では意識的にそうあろうとはしていました。
――カメラのポジショニングについても、現場で探っていったのでしょうか。
伊藤:それは割と決めていました。自然が映ったときなどに存在感が変わるので、ヒキ画は現場で決めることが多かったですが。
――観る側においては、想像する楽しみがある作品かと思います。最後に改めて、『サイドバイ サイド 隣にいる人』を気になっている方にメッセージをいただけますでしょうか。
坂口:僕は観ていただいた方にこう思ってほしい、というのはありません。観てもらった瞬間にその人のものになるだろうし、捉え方もその人の生きてきた環境や歴史によるでしょうし。『サイド バイ サイド 隣にいる人』は、それがより顕著に表れた作品のような気がしています。極論を言うと、その人が朝何を食べたかで変化があるかもしれません。
市川:本当に!
坂口:力強い相槌だ(笑)。冒頭で実日子さんが言ってくれたように、観ていただくタイミングによっても印象が変わるような気がしています。この作品っていろいろなシーンでスカッとしてほしいとも思わないし、心にふんわりと、もやっとしたものが残るのも魅力だと感じています。観た後にお客さんの中で「あのシーンはどういうことだったんだろう、どんな意味が込められているんだろう」と考える時間ってすごく豊かなものだと思いますし、何かを持ち帰ってもらえたらそれだけで正解かと思います。
――齋藤さんはいかがですか?
齋藤:すごく素敵でした。「左に同じです!」と言いたいところですが(笑)、私が完成した映画を観たときにパッと思ったのは、いい意味で不気味だということです。綺麗なものって、どこか不気味だったりするじゃないですか。そういった感じで、何か心に引っかかる作品だと思います。私は脚本も読んだし、現場にも行ったけど、まだどこか得体のしれない作品だと感じています。だから観て下さる方に「ここをわかってほしい。理解してほしい」と言うのもおこがましいですね。得体のしれない何かが胸につかえてくれたらと思います。
市川:そうですね。言葉ではなく表情だけで感情を表現している部分もあるので、見方によって受け取り方が大きく変わる作品だと思います。音や自然もそうだし、美しくて怖いものがたくさん映っているので、映画館という最高の環境で感じ取っていただけたら嬉しいです。
伊藤:私の中でも、この映画は寓話的に表現したいという想いがありました。人との距離や自然、不気味な部分もそうだし余白も含めて、それぞれに感じ取れるものが奥に隠れています。それが皆さんそれぞれの生活と重なったら、すごく素敵だと思います。
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